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東京高等裁判所 昭和62年(う)1236号 判決 1987年12月21日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中三〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人新井博作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官友野弘作成名義の答弁書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。

一  控訴趣意第一について

所論は、強盗致傷罪における傷害は傷害罪における傷害とは異なり、生活機能をある程度毀損すると認められるものでなければならず、本件における傷害はその程度にいたっていないのに、これに強盗致傷罪の成立を認めた原判決には法令適用の誤りがある、というものである。

そこで検討するに、下級裁判所の裁判例の中には、所論指摘のごとく、強盗致傷罪における傷害は傷害罪における傷害とは異なり、生活機能をある程度毀損するものであることを要するとするものもあるが、当裁判所は、強盗致傷罪と傷害罪における傷害の意義を別異に解釈しなければならない根拠はないと考える。

しかして、関係証拠によれば、被害者は、被告人による数回の手拳の殴打により、下唇の内側など外側から出血し胸には青あざが出来たこと、医者の診療を受けたところ口唇挫傷、右胸部打撲、挫傷で加療約一週間ないし一〇日間の診断であったこと、被害者は医者から貰った軟膏としっぷ薬をつけて治療をしたこと、胸の痛みや唇のけがで食事時にしみるなどして生活にも不自由を来たしたこと、右の痛みや傷跡は事件後五日間位残ったことが認められるのであり、これによれば、右の傷害が強盗致傷罪における傷害にあたることは明らかであって仮りに所論の見解を持ったとしても強盗致傷罪における傷害として十分な程度のものであるということができる。従って、強盗致傷罪の成立を認めた原判決は相当で所論の誤りは存しない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意第二について

所論は、本件においては強盗致傷罪が成立しないことを前提に量刑が不当に重い、というものであるが、所論がその前提を欠くことは前記のとおりであり、事件当日パチンコをして所持金のほとんどすべてを使い果たし、駐車中の車内から金品を窃取するため物色中、被害者に発見されて逮捕を免れるため暴行に及び、被害者に前記の傷害を負わせた犯情は悪く、被告人の前科、前歴、生活態度などからすると、その刑事責任は重いと言わなければならないのに、幸い窃盗は未遂に終って財産的損害はなく、暴行の態様も強盗致傷の事案としては比較的軽いこと、被告人が深く反省していること、妹の出捐により被害者と示談が成立し、被害者から寛刑を望む旨の意思表示を得ていることなど有利な諸事情を勘案し、酌量減軽の上最下限の刑を課した原判決の量刑を非難すべき理由はない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田光了 裁判官 近藤和義 坂井智)

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